個人情報保護法-2「個人情報の定義の明確化」

◇第2回 個人情報の定義の明確化◇

「改正・個人情報保護法への準備(第2回)」のテーマは、個人情報の定義の明確化についてです。

 

個人情報保護法は2005年に施行され、10年を経過しました。前回も触れましたが、この間の技術的な進歩、社会情勢の変化は極めて大きく、現行法(現在施行されている個人情報保護法を指します)では、カバーしきれない要素が多くなったといえます。用語の持つ意味(定義)においても顕著にその傾向が現れております。個人情報の定義に関してもIT技術の進展などにより、今まで簡単には認識できなかったものが高速に、そして、正確に個人を識別できる情報として取り扱うことが可能となりました。また、個人に付番された番号が様々な用途で、また、インターネット上を中心に頻繁に利用されるようになり、こうした利用形態を狙った犯罪も激増するに至りました。こうした現状を踏まえて個人情報の定義を見直し、明確にする必要が生じてきたわけです。

 

1.個人情報の定義の変更

改正法においては、個人情報の定義がより具体的、詳細な内容を含むものになりました。以下に、現行法、改正法の新旧条文を対比し確認してみましょう。

 

現行法

【第2条第1項】

この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

 

改正法

【第2条第1項】

この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第2号において同じ。)で作られる記録をいう。第18条第2項において同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

 

二 個人識別符号が含まれるもの

 

一目瞭然、改正法では詳細な記述に生まれ変わっています。

 

1) 変更のない部分

「個人情報は、生存する個人の情報であること」

 

「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。」

 

個人情報保護法が規定する義務を遵守しなければならない「個人情報」は生存する個人

の情報です。この点に変更はありません。但し、既に経済産業省のガイドラインにも記述

されているとおり、故人の情報であっても配偶者、ご子息、ご息女あるいは親戚等の生存

する個人の個人情報になる場合も多く想定されます。他の情報を照合し組み合わせること

により、容易に個人を識別しうる情報にもなり得ますので注意が必要です。

 

JIS Q 15001(2006)においては、生存するか故人であるかは分別せず個人情報として取り

扱うことを求めていますが、その理由は上述のものと考えても良いでしょう。また、個人

番号をその内容に含む特定個人情報の取扱いにおいても、生死の区別はありませんので重

ねて注意が必要です。

 

「他の情報と照合して識別」が可能となるものに関しては、次回以降に登場する「匿名

加工情報」にも関連しますので必ず押さえておきましょう。

 

2) 変更・新設された部分

現行法の定義では、「当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の

個人を識別することができるもの」という具体的記述を多く含まない条文です。

 

ところが改正法では、「次の各号のいずれかに該当するものをいう。」という条文に

なっています。では、次の各号とはどのような内容なのでしょうか。

 

第一号の内容は以下により個人を識別することができるものを含みます

・当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等

・記述等とは、文書、図画、電磁的記録(電子的、磁気的記録等)が含まれる

・音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項により

 

分かり易く表現をすると、氏名、生年月日、住所などの記述された事項に加えて、特定

の個人を識別できる文書(種々の表現により個人が分かる)、指紋などの図画(図形)や

音声などのアナログデータ(ディジタル化していない情報)により個人が識別できるもの、

これら全てが個人情報となることを意味しています。

 

第二号の内容は「個人識別符号」を含むものとなります。

 

個人識別符号とは、改正法において新設されて用語です。簡潔に表現すれば、特定の個

人を識別できるディジタル化されたデータや番号等が相当することになります。個人識別

符号に関する条文は以下のとおりです。

 

【第2条第2項】(改正法にて新設)

この法律において「個人識別符号」とは、次の各号のいずれかに該当する文字、番号、

記号その他の符号のうち、政令で定めるものをいう。

 

特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、

記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの

 

個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ、

又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁的方式により記録さ

れた文字、番号、記号その他の符号であって、その利用者若しくは購入者又は発行を受け

る者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、又は記載され、若しくは記録されるこ

とにより、特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの

 

中々なじみにくい表現ですが、条文の内容を整理すると以下のようになります。

①特定の個人の身体の一部の特徴をディジタル化したもの

・顔認証、指紋認証、静脈認証、網膜認証、歩容認証等の生体認証情報

・遺伝子情報

②個人に割り当てられた文字、番号、記号、その他の符号

・個人識別符号の利用目的

・個人に提供される役務の利用

・個人に販売される商品の購入

・記録・記載の方式

・個人に発行されるカードその他の書類に記載

・電磁的方式により記録

・識別できるもの

・特定の利用者、購入者、発行を受ける者を識別可能

 

こうした番号、符号としては、運転免許番号、旅券番号、個人番号があり、クレジット

カードも該当する可能性が極めて高いものと考えられます。また、各種会員IDなども該当

すると考えることもできます。どの範囲までが個人識別符号となるかについては、これか

ら明確にされます。今後、示される施行令、ガイドラインの内容をしっかり確認し、該当

する番号、符号等を押さえておかなければなりません。

 

個人情報の定義の変更により、現在事業を行う上で取り扱っている情報を、もう一度見

直す必要が生じることになり、非常に大きな意味を持ちます。最新の情報を捉えながら適

正な取扱いができるよう準備してまいりましょう。本稿においても、詳細な情報が分かっ

た場合は、速報としてお知らせしてゆきたいと考えます。