客室乗務員マタハラ訴訟が和解 会社が産前地上勤務を原則認める方向へ
「妊娠判明後に地上勤務への配置転換を認めず、休職を命令した措置はマタハラ(マタニティーハラスメント)に当たるとして、国内の大手航空会社の現役客室乗務員が同社を相手取り、休職命令の無効確認などを求めた訴訟について、6月28日、地方裁判所で和解が成立した。」という報道がありました。
和解の内容には、妊娠した客室乗務員が地上勤務を申請した場合、原則的に認めることや、会社は労働組合側に対して客室乗務員から地上勤務になった人数や配置先などの情報を開示するといったことなどが盛り込まれたそうです(和解金の支払いの有無などについては、守秘義務により明らかにされていません)。
同社では、昭和55年に「妊娠した場合、本人の希望により休職か地上勤務のどちらかを選べる」という規定が導入されたそうですが、経営難などにより、平成20年に、この規定に「会社が認める場合のみ」という条件が付け加えられ、認められないことが多くなったそうです。
その「会社が認める場合のみ」という条件に合理性があれば問題にならなかったのでしょうが、約5千人の女性の客室乗務員がいる会社であるにもかかわらず、産前地上勤務の枠を数枠(一桁後半)しか用意していなかったということで、ほぼ認めないことが前提といわれても仕方がない状況だったようです。
休職した場合の不利益の程度も大きく、無給となり、賞与も支給されず、退職金に影響する勤続年数に算入されず、社宅からも退去となるなどの不利益があったということです。
マタハラなどに敏感なこのご時世ですから、裁判が長引くと会社のイメージダウンにつながりかねないという判断で、和解に踏切ったのかもしれませんね。しかし、会社の広報部は「会社の先進的な制度(他社にはない産前地上勤務制度)が和解で確認された。当社としては今後ともこの制度を率先して充実していきたいと考えている」とコメントしたそうで、和解を前向きに捉えているようです。
参考までに、労働関係法令を確認しておきましょう。
〔確認〕
厚労省:報道発表資料 平成28年8月31日 別紙2
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する解釈通達について
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11902000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Koyoukintouseisakuka/0000134670.pdf
※もし、今回の裁判が続いていたら、この行政解釈や過去の最高裁判例に沿って、休職が不利益取扱いに当たるかが争点になっていただろうと思われます。
もう一点、労働基準法における産前・産後の取り扱いも確認しておきましょう。
〔確認〕産前産後休業等(労働基準法第65条)
6週間(多胎妊娠の場合には14週間)以内に出産する予定の女性が休業(産前休業)を請求した場合、使用者はこの労働者を働かせることはできません(女性労働者から働きたくないという請求がない限り、この女性労働者を働かせることができる)。
また、妊娠中の女性が請求した場合には、負担を軽くするために他の軽易な業務に変更する必要があります。しかし、そのためにわざわざ新たに軽易な業務を作る必要はありません。
一方、産後8週間を経過しない女性は、請求の有無を問わず働かせることはできません(産後休業)。ただし、産後6週間を過ぎた女性が請求した場合であって医師が働くことに支障がないと認めた業務につかせることは、問題ありません。
※産前の労働が可能である点は確認しておきましょう(本人の希望次第)。他の軽易な業務への転換の規定があることも確認しておきましょう。なお、「しかし、そのためにわざわざ新たに軽易な業務を作る必要はありません」という部分は、行政解釈(通達)で補足されている内容です。